A Picture of Dutch Lady

阿蘭陀女の図
長崎絵 (版画),18世紀頃
© The Trustees of the British Museum. Shared under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International (CC BY-NC-SA 4.0) licence.

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Rien n'est plus fécond, tous les mathématiciens le savent, que ces obscures analogies,
ces troubles reflets d'une théorie à une autre, ces furtives caresses, ces brouilleries inexplicables ;
rien aussi ne donne plus de plaisir au chercheur.

数学者なら誰もが知っているように,これらの曖昧な類推,ある理論から別の理論へと揺らめく
不確かな反映,かすかな触れ合い,説明のつかない混乱ほど実り多いものはない.
そして,これほど研究者に喜びを与えるものもない.

André Weil   アンドレ・ヴェイユ

De la métaphysique aux mathématiques   『形而上学から数学へ』より

数学における 類似 analogy の感動と重要性について,André Weil は上のように記しています.19 世紀以降,有限体上の 1 変数代数関数体に対して展開される 関数体の数論 Function Field Arithmetic は,代数体の理論と数論的,(ある)いは幾何的な視点を相互に提供し合いながら発展してきました.しばしば大域体として代数体と一纏(ひとまと)めに扱われる関数体ですが,そこへ一歩足を踏み入れると,Weil が言うところの『説明のつかない混乱』が随所に顔を(のぞ)かせ,代数体とはまたひと味違った,刺激的で豊かな景色が広がっていることに気付くでしょう.

1935 年には,Leonard Carlitz によって古典的な指数関数や円分体論の類似を与える Carlitz 加群 の理論が構築され,関数体の数論における新しい領域が切り(ひら)かれました.1970 年代には,Vladimir Gershonovich Drinfeld の革新的な研究によって,Carlitz 加群の一般化である楕円加群(現在の Drinfeld 加群)が導入され,関数体における GL2 の大域 Langlands 対応が実現しました.楕円曲線の関数体類似でもある Drinfeld 加群自体も,Mordell–Weil 型定理(ただしランクが加算無限!)の成立や,Tate 加群と還元の関係が観察されるなど,多くの面で数論研究者たちの興味を()いてきました.1986 年には Greg William Anderson が Drinfeld 加群をより一般化した t-モチーフ を定義し,関数体の数論におけるここ数十年の発展を支える礎を築きました.さらに近年では,Hodge–Pink 理論 による 等標数クリスタリン表現 の定式化や,Lenny Taelman が導入した Drinfeld 加群の Taelman 類群 に関する画期的な研究など,代数体との単なる類似を超えた独自の現象が次々と発見されています.

関数体の数論が,“標数 0 の世界” のトイ・モデルに留まらない魅力を備えていることに疑いの余地はありませんが,標準的な整数論の勉強は代数体乃至(ないし)p 進体が基本となるのが必然であり,明確な意思を持って選択しない限りは正標数の数論と触れ合う機会が乏しいように見受けられます.そこで,今回のサマースクールでは 関数体の数論 をテーマとして,標数 0 の場合との類似や相違を随時比較しつつ、Carlitz 加群や Drinfeld 加群の古典理論から出発し,A-モチーフなどの現代的な対象や最新の研究トピックまでを概観したいと考えています.

関数体の研究を志す方も,興味がありながら触れる機会に恵まれなかった方も,ご自身の数学を携えて標数 p の世界に飛び込めば,きっと新たな視点や面白さに出会えると信じております.この夏,新世界三大夜景に数えられる輝きを眼下に,異国情緒(あふ)れる長崎の風を感じながら,関数体の数論が織りなす心地よい混乱と喜びに身を委ねてみませんか?

更新履歴

本ホームページには,第33回整数論サマースクール『関数体の数論』に関する情報を随時掲載していく予定ですので,サマースクールへの参加を検討されていらっしゃる方は定期的にご確認いただきますようお願いいたします.

更新履歴

Q & A   よくあるご質問

Q. 関数体なのに「整数論」って凄く違和感があるんですが…….

本ウェブページの 巻頭言 をぜひご覧ください.

Q. 予備知識はどれくらい必要?

プログラム前半は,体論 (特に有限体,非分離拡大,ガロア理論) や代数的整数論の知識 (特に分解群と惰性群,ヒルベルトの分岐理論,完備離散付値体の基礎事項など) を身に付けていれば,各講演をひと通り理解できるようなプログラム構成としたつもりです.これらの内容に不安がある方は,体論のテキストや [数論I], [Ser68], [Neu92] などで予め簡単に復習した上で参加されることをお勧めします.代数的整数論に関しては,代数体や p 進体の場合を修得していれば十分対応できると思いますが,[Ros02][Pap23] の Chapter 1–2 に正標数の場合が丁寧に(まと)まっていますので,あわせて参考になさってください.また,初日午前のプレスクールで関数体の基礎事項について解説する予定ですので,関数体に不慣れな方はぜひ参加をご検討ください (プレスクールの参加は任意です).

プログラム後半になると可換代数の道具 (テンソル積,可換環の完備化,形式的べき級数環,ローラン級数体など) を頻繁に用いますので,可換環論のテキスト ([AM69], [Mat70], [GW06] など) を参照して基本的な定義や性質を押さえておくと安心です.

Q. 正直自分の興味・関心とは遠い内容なんですけど……

関数体の数論では,代数体の整数論と驚くほどよく似た構造が多数観察され,それでいて代数体の整数論では決して起こり得ない奇妙な現象もしばしば現れるので,むしろ代数体の整数論によく慣れ親しんだ方の方がその違いを楽しめると思います.正標数の数論の世界を体験することで,研究に対する視点も格段に拡がるのではないでしょうか? 一方で,まだ本格的に整数論の勉強・研究に着手されていない方であれば,先入観なしに正標数の整数論を吸収できる絶好の機会となるでしょう.関数体の数論は今もなお発展し続けている分野ですので,ある程度訓練すれば,研究課題となりそうな問題とも必ずや出会えるはずです.

また,扱う対象が関数体となりますので,通常の (標数 0 の) 代数的整数論よりも代数幾何学的な色合いが濃く出ている点も,関数体の数論の大きな特色の 1 つです.扱う環も (当然のことながら) 正標数の可換環となりますので,環論的な観点からも非常に興味深い対象であると言えるでしょう.したがって,整数論を専門とされる方だけでなく,普段は可換環論や代数幾何学の研究に従事されている方にとっても,新たな発見のある実り多いサマースクールとなるのではないかと思いますので,ぜひ積極的に参加していただければと考えています.

色々な数学の世界を知ることは,将来の研究の糧となることこそあれ,決してマイナスにはなりません. 巻頭言 に眼を通して,少しでも「面白そうだな」と感じられましたら,ぜひ参加をご検討ください!!

主催者

第33回 (2026年度) 整数論サマースクール   『関数体の数論』 | 背景画像 雲仙ツツジ (長崎県の県花)