第4回琵琶湖若手数学者勉強会の報告書です.前年に引き続き森伸吾君の御好意で呼んでいただけることとなりました (今回は九州大学の小関祥康君は不参加).
前回同様専門分野がかなりかけ離れた班員構成だったので,題材選びの時点でかなり難航しました.そんなあるとき (これも前年と同じ本ですが) 「コルバリス」に掲載されているドリーニュの周期予想なんて良いんじゃないかと言う提案が出たのです.確かに L関数の特殊値の研究には広く解析的,保型的,数論幾何的な手法が用いられるので,L関数の特殊値という題材はこのばらばらな班員構成にも巧く適合するのではないかと思われました (序文に書いた通りです).そこで,どうせならばドリーニュを出発点として3人でそれぞれが興味を持つ L関数の特殊値についての論文なり何なりを持ち寄り,発展的なところにまで踏み込んだ議論をしようと言う大変高邁な理想を掲げて琵琶湖に向け出立したのでした.
そんな理想とは裏腹に,時期が時期だけに (博士2年-3年の春休み) 3人ともかなり多忙となってしまい,結局予習,報告集執筆の時間ともなかなか満足がいくように取れなかったのが残念です.特に折角並川くんがセミナーで扱ってくれた保型形式の p-進ゼータ関数 (測度) の構成に関する話題や森くんが扱ってくれた保型 L関数の中心値に関する話題について報告書で触れることが出来なかったのは痛恨の極みです.また,個人的には加藤和也先生のレクチャーノートをこの機会に読み込んで,明示的相互法則 (explicit reciprocity law) のサントミック・コホモロジーを用いない証明くらいはフォローしようと思ったのですが,これも果たされないままとなってしまいました.そうは言っても報告集の分量は大分凄いことになってしまったので,その上これだけのことを詰め込もうとしていた時点で高望みが過ぎていたというものかもしれません.
今回森くんが多忙を極めたこともあって全体の最終校正を担当したのですが,これがまた非常に大変で発狂しそうな程でした.改めて編集という仕事の大変さを身に染みて感じたとともに,原稿が大幅に遅れたことをこの場を借りて三井健太郎さんにお詫びさせていただきたいと思います. (そのせいかどうかは分かりませんが,全体的に私が書いたような文体だったとのコメントをいただきました.そんなこともないようなあるような.........)
第18回整数論サマースクールの「院生とポスドクの時間」で20分講演をさせていただいた内容の記録です.博士3年前期に非可換 p-進ゼータ関数の存在の下で満たされるべき合同式について考察したのですが,それが一息ついた (行き詰まった?) ため整理も兼ねて発表させていただきました.
恐らく主結果はクンマー型の合同関係式が非可換 p-進ゼータ関数の存在の仮定の下で高次表現に於いても (μ不変量の部分も含めて) 成立することを示したことなのでしょうが,証明は深谷-加藤の非可換玉河数予想に於けるゼータ同型の底変換整合性とバーンズ-ヴェンヤコブに依る一般化μ不変量の計算を用いるだけで別段難しいものではありません.
また,この様なクンマー型合同式はヴィニヤク・ヴァトサルに依る保型形式の p-進ゼータ関数間の合同式が典型例であり,非可換岩澤理論以前の古典的な岩澤理論の段階で既に観察され期待されていた極めて自然なものであると言えます.
他方非可換 p-進ゼータ関数を〈貼り合わせ〉で構成する際には,リッター-ヴァイスの合同式のように次元の異なる表現に付随する p-進ゼータ関数間の合同式が本質的に重要であり,本来ならばこのような異質なタイプの合同式に何らかの数論的意味付けを与えることが急務であると言えます.しかしこの様なタイプの合同式が一体どのような原理で非可換 p-進ゼータ関数の存在から導きださるるべきかは現段階では皆目見当もつかない状況と言わざるを得ず,悶々とした状態が続いているのが現状です.
伝統的な研究集会『代数的整数論とその周辺』で初めて講演させていただいた際の報告集の原稿です.
非可換岩澤理論はまだまだ良く知れ渡ってはいないため, 理論の概要や主予想の定式化から始めざるを得ず, 50分の講演時間ではアブストラクトの概略をさらに切り詰めた程度しか話せませんでした (要するに深い話は全くしていないということですね). そんなわけで報告集の原稿は「非可換岩澤理論の概要及び主結果の証明方針を出来る限り詳しく, それでいてあまり専門的になり過ぎないように書く」という無謀な目標を立て, これをなるべく達成すべく色々試行錯誤して執筆しました. このような経緯がありますので, 概説記事とはいえ個人的には結構気に入っております.
さて, 原稿とは全く関係はないのですが, この研究集会の翌年に幸運にもケンブリッジ大学に1ヶ月程滞在する機会に恵まれたのですが, その際に集会の代表者でいらっしゃいました岡山大学の中村博昭先生とたまたまご一緒させていただくこととなり, 日本人の少ない環境で右往左往する中様々な面で大変お世話になりました. この場を借りて御礼申し上げます. あ, あと修正原稿をなかなか出さなかったり, 採用通知メールを誤消去してしまったため再送していただいたりと (何をやってるんだか...) 色々ご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした.
以下さらに余談ですが, 自分の講演は最終日に割り振られておりまして, 東大の先生を含め大先生方も既にあらかた帰ってしまわれており, 知ってる方もあまり残っていなかったので, あまり気負わず普段のセミナーの時のようにやりたい放題な (?) 講演をしたところ (いけませんねぇ), 講演後の質疑応答で思わぬところから質問を受けまして, しかもそれが加藤和也先生であることに気づいて大慌てしたという苦い思い出があります. どうやら講演開始直前に会場にいらしていたのを完全に見過ごしてたようで, わざわざ聞いていただいて光栄やら変な (?) 講演を聞かせてしまって恥ずかしいやらで頭の中がホワイトアウトしました. いやはや, 知らないと言うことは本当に恐ろしいことですね.
第3回琵琶湖若手数学者勉強会で, 所謂「コルバリス」に掲載されているジョン・テイトの有名な論説 "Number theoretic background" (ヴェイユ群の表現やラングランズ予想等についての概説) を勉強しました. その報告集の原稿です.
テイトの論説は4つの節に別れており, 我が班のメンバーも丁度4人だったので報告集はそれぞれ1節ずつ分担することとなりました. 自分の担当部分はその一番最初の節で, ヴェイユ群の構成等を扱う節だったので「一番楽な部分だろうな」と高を括っていたのですが, 蓋を開けてみると一番面倒な部分を担当してしまったのかも知れません......
それというのもテイトの論説ではヴェイユ群の構成と一意性の証明を完全にフォローしてるわけではないので, セミナー準備及び報告集執筆の際に結局アルティン-テイトの類体論の本に当たることになるのですが, これがまた読みづらい本でして, しかも昔の本で索引等も無くどこに何が書いてるかが非常に見にくく, フォローするのがかなり大変なわけです. しかも頑張ってヴェイユ群の構成を結構一般でやっていますが, 結局ヴェイユ-ドリーニュ表現では局所体のヴェイユ群位しか出てこないんですよね...... まぁ別に局所表現の時にしかヴェイユ群が役に立たないわけではないですし, 何よりも折角読み込んだのですから, この先ヴェイユ群をアルティン-テイト等で勉強しようという方の参考になるように割合丁寧に書いたつもりです.
相変わらず解説記事となるとテンション高いですねぇ. 共同執筆者の森伸吾さんに「酒飲みながら書いたやろ」などと非常に失礼な(!)感想を言われたような気がします (勿論そんなことはございません!! 自分ではそこまで言われる程壊滅的な文章でもないと思うのですが......)
コードネーム『Cの悲劇』 C=CHINO (茅野)
八ヶ岳原村ペンションビレッジで行なわれた, 最近目覚ましい発展を遂げている R=T 理論についての勉強会の報告集の原稿です. といっても実際に講演されたのは RIMS の山下剛さん (当時) と安田正大さんだけだったので, 私が勉強会の何を報告したのかについては未だに謎のヴェールに覆い隠されているのですが......
R=T なんてそれまで全く勉強したことがなかったのに, いきなり「佐藤-テイト予想の証明をした論文の解説を書いてね」と言う話になりましてただただ呆然と立ち尽くしていた覚えがあります. そんなわけで死にそうになりながら色んな論文を流し読みしつつ何とか書き上げた労作 (?) です. 完成までに結局 1 年近くかかってますねぇ. 力量不足に依り苦労の量に内容の完成度が追い付いていない気が殆ど到る処でするのですが...... 当分 R=T には関わるまいと決意するきっかけとなりました (笑)
特に締め切り前は壮絶で, 途中で所謂「トランス状態」に陥ったので, 大分おかしなテンションの文章となっております. アリスって (笑)
どうせ書くならと思って, 歴史的なこととか関連事項とか自分でも「書き過ぎじゃないかなぁ?」と思う位書いたのですが, 安田正大さんはそんな私のちっぽけな自己満足の遥か高みを音速ジェット機で滑空していくような非常にパワフルな方でいらっしゃいますので, 「折角これを書くんだったらこれも書きません?」という類の御提案をそれこそ山の様にいただき, 「ほうほう, 勉強になるなぁ」等と思いながらそれらの提案に対応しているうちに, 80ページもある大解説文になってしまいました. 本当にこんな分厚い解説文一体誰が読むんでしょうか............??????
提出前に何度も校正した筈なのに, "siyou" は無いよなぁ... 反省します.
あまりに長いからか, 読んだ方からのリアクションは殆どいただいてないのですが (むしろ恐ろしくてあんまりこちらも感想を尋ねる気にならないのですが), 意外なことに RIMS の星裕一郎さんから楽しく読んで下さったとの感想をいただきました (あくまで「楽しく」と言うところがポイント). いやはや, こういった解説記事はどこの誰が読んでるか分からないものだなぁと他人事のような感想を抱きつつも, 少しは苦労が報われたような気がしてほっとしております.
なお, こちらの論説に対する質問・苦情等は鄭重にお断りさせて......いただくわけにはいきませんか?? だってそんなに深いところまで分かっていないんですもの...
余談: 因みにこの報告集が刷り上がるか否かという絶妙なタイミングで, バーネット・ラムさんやジーさん (爺さんではない) がヒルベルトモジュラー形式の佐藤-テイト予想の証明をアーカイヴに載せました. 少し発行が遅れたらこちらについてもコメントしろと言う話になったかも.........と思うと冷や汗が止まりません..
修士論文執筆, 論文審査, 博士課程口頭試験という怒涛のスケジュールに揉まれ, 修士二年の最後の2,3ヶ月は全く気を休める暇が無かったので, 心身をじっくり癒すために城崎温泉郷に温泉&蟹を楽しみに行った思い出を綴ったもの......もとい, 第5回城崎新人セミナーに参加させていただいた際の報告集の原稿です. 本格的に同期の他大学生と交流したのはこれが初めての体験で, このとき培った交流は今なお自分の最大の財産の一つとなっております. それほど楽しく充実したセミナーでした.
ここで記念すべき初講演を行ったわけですが, 前日つたや晴嵐亭さんで頑張り過ぎたツケが回ったのでしょう (推して知ってください), 講演開始時間を取り違えて15分くらい延長してしまうと言う大, 大, 大失態を犯してしまいました (関係者の皆様, 改めてすみませんでした). それでいて自分の論文の結果を全く話せていないという......全く以て目も当てられません.
と言うわけで, 講演で話すつもりだった部分を補いながら書いたら結構なボリュームになってしまいました. この量を40分で話そうとしていたとは, まぁ何と無謀な.........(苦笑)
後の原稿に見られるようなテンションの高い文体 (?) はこの頃から既に顕在化していることが伺えますが, 矢張り未熟さがちょこちょこ出てますね, 細かい間違いが山積しております. 結構頑張って非専門家向けに書いたんで, そのうちこの辺りのつまらないミス達を修正したものをアップ出来れば......とは思っているんですが. 時間的にも余力的にもなかなか難しいですかね.
第 16 回整数論サマースクールで人生で初めてポスター発表というものを体験しました. たまにはこういうのもいいかな, と思って始めてみたら, これがまた大変なこと大変なこと. 所謂普通の原稿と違ってプレゼンテーション用の原稿ということで, レイアウトやら何やらに気を使わなくてはならないし, そういう場面に限って無駄に凝り性な性格が鎌首をもたげたりして, サマースクール2日前位から作り始めたのにも関わらず徹夜で幕張に向かう羽目となりました.. 出来上がりは我ながらそこそこ巧く出来たと思っていますが, 作業時間及び労力とどうにも釣り合っていないように思われて, 以降プレゼンテーション用の資料が必要な発表は殆ど行っておりません. プロジェクター等で発表する方も多い御時世ですが,「よくあんな面倒くさい準備を涼しい顔してこなせるなぁ」とただただ感心してしまいます. 自分はまだまだ板書中心のアナログ人間のようですね.
因みに作成ツールは, 東京大学の新井仁志先生のページにある「Tex でプレゼンテーション何ちゃら」のツールを利用させていただきました.
そうそう, 多分数学関係者はみんな経験があると思うのですが, 他の理系学科の同期の人たちなどと会話している際に「大抵の人は板書でプレゼンテーションする」とか「研究集会にはほぼ私服で参加する」とかいった話をするとかなり驚嘆されます. 研究集会はパワポにスーツが当たり前などと言われると, 数学界ってやっぱりガラパゴス化しているのかなぁ, なんてちょっと思ってしまいます. その「気負わなさ」が自分には非常に合っているのですが.