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津田塾大学整数論ワークショップ  2024

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講演概要

講演者五十音順・敬称略.講演概要の印刷用 pdf ファイルはこちらからどうぞ→

記号凡例: : 黒板での講演, : プロジェクターでの講演

※ いずれの講演も,オンラインでの参加者には Zoom でのオンライン配信をいたします

虚数乗法を持つ一点抜き楕円曲線に付随したある指標族の分解公式

石井 竣 (慶應義塾大学)

代数体上の一点抜き楕円曲線のエタール基本群の最大副 $p$ メタアーベル商への Galois 作用は, Kummer 理論を通じて Siegel 単数の積に対応するある指標族により明示される (中村, 1995). 本講演では, 楕円曲線が虚数乗法を持つ場合に, それら指標族のうち奇数回 Tate 捻りに値を持つものを Soulé 指標と一般化 Bernoulli 数によって表す公式を紹介する. 本講演の内容は後藤有輝氏 (慶應義塾大学) との共同研究に基づく.

Dirichlet L 関数の確率的従属性

井上 翔太 (日本大学)

本講演では,Dirichlet $L$ 関数の確率論的な関係性について議論する.Selberg はある講究録で ,Dirichlet $L$ 関数を含む一般の $L$ 関数が確率的に独立となることに言及した.しかし,その講究録には独立性についての数学的な議論がなく,何をもって独立であるかは謎であった.その後 Bombieri と Hejhal は臨界線上での $L$ 関数の同時値分布が,多変量正規分布となることを示し,Selberg が言及した確率的独立性を明らかにした.

一方で,Bombieri と Hejhal の結果は臨界線に限定したもので,その他の領域での $L$ 関数の独立性は明らかになっていなかった.講演者は Li 氏との共同研究で,Dirichlet $L$ 関数の同時分布に対する漸近挙動を与える公式を証明し,その結果, 臨界線ではない他の領域では Dirichlet $L$ 関数が確率的に非独立となることを証明した. 加えて我々の漸近公式は,Mahatab–Pankowski–Vatwani らの未解決問題を Dirichlet $L$ 関数の場合で解決することができる.本講演では,これらの結果について報告したい.

保型微分方程式と不変式論

木村 昭太郎 (早稲田大学)

保型微分方程式とは,解空間がモジュラー不変性を満たす微分方程式である.金子,Zagier 氏らにより,楕円モジュラー形式に対する保型微分方程式(Kaneko–Zagier 方程式)が導入された. この方程式の多変数モジュラー形式への一般化が,正則ヤコビ形式の場合が喜友名氏により,歪正則ヤコビ形式の場合が講演者によって与えられている.これらは頂点作用素代数の分類や,楕円種数などへの応用がある.一方,有限群の不変式とモジュラー 形式の間に対応があることが知られている.特に,いくつかのユニタリ鏡映群の不変式環は楕円モジュラー形式環と同型になる.

本講演では上で述べた同型を用いて Kaneko–Zagier 方程式の不変式環における対応物(不変微分方程式)を考察する.不変微分方程式の斉次多項式解のほとんどは超幾何関数を用いて記述できることがわかる.更に,これらを用いて上で述べたモジュラー形式に対する保型微分方程式のモジュラー形式解を構成できることを紹介する.

実 2 次体の狭義イデアル類が定めるモジュラー曲線のホモロジー類について

坂本 龍太郎 (筑波大学)

実$2$次体の狭義イデアル類から自然にモジュラー曲線のホモロジー類を定めることができる.このホモロジー類は,モジュラー形式 (から定まるコホモロジー類) とペアリングをとるとある $L$ 関数の特殊値が現れる,数論的に興味深い対象である.本講演では,これらのホモロジー類が定める部分群の大きさについて最近得た結果について紹介する.この講演は Max Planck 研究所の Hohto Bekki (戸次 鵬人) との共同研究に基づく.

On the Mazur–Tate refined conjecture for the anticyclotomic tower at inert primes

椎井 亮太 (九州大学)

B. Mazur と J. Tate は $\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ の Hasse–Weil $L$-関数の特殊値を補完する Mazur–Tate 元を定義し, $E$ の Selmer 群の Fitting イデアルとの関係についての予想を定式化した.

元の予想では拡大体として $\mathbb{Q}$ からの円分拡大を考えているが, 考える拡大が虚二次体 $K$ からの反円分 $\mathbb{Z}_{p}$-拡大の部分体である場合, 素数 $p$ の $K/\mathbb{Q}$ での振る舞いに大きく依存する. $p$ が $K/\mathbb{Q}$ で分解する場合は, $E$ が $p$ で良通常還元の場合も良超特異還元の場合も Bertolini–Darmon 元を用いた C.-H. Kim による結果がある.

今回, $p$ が $K/\mathbb{Q}$ で惰性的, かつ $E$ が $p$ で良超特異還元をもつ場合の類似の結果が得られたので, このことについて紹介する.

Tate–Shafarevich 群の 2 次拡大とツイストとの関係

志賀 明日香 (東北大学)

代数体 $K$ 上の楕円曲線 $E/K$ の Tate–Shafarevich 群 $Ш(E/K)$ は局所大域原理成立の障害を表す群であり,$Ш(E/K)[2]$ は位数 $2$ の元からなる有限部分群を表す.Yu (2004) は Tate–Shafarevich 群の有限性の仮定の下,$\#Ш(E/K(\sqrt{D}))$ を $\#Ш(E_D/K)$ を使って表す公式を得た.ただし $E_D/K$ は $E/K$ の $D$ によるツイストである.Clark (2010) は独立に,$Ш(E/K(\sqrt{D}))[2]$ がいくらでも大きくなることを示した.

本講演では,Tate–Shafarevich 群の有限性は仮定せずに $\dfrac{\#Ш(E/\Bbb{Q}(\sqrt{D}))[2]\#2Ш(E/\Bbb{Q}(\sqrt{D}))[4]}{\#Ш(E_D/\Bbb{Q})[2]}$ がいくらでも大きくできることを示す.証明には,余制限写像と Cassels が $Ж$ (ジェ) と呼んだ群を分析することで,Yu の公式の位数 $2$ の部分を抽出するという手法を採る.また,Tate–Shafarevich 群の有限性の仮定の下,$E: y^2=x^3+px$ ($p$ は奇素数) の場合に,$Ш(E_D/\Bbb{Q})[2]=0$, $\#Ш(E/\Bbb{Q}(\sqrt{D}))[2]\le 4$ を満たす $D$ がそれぞれ無数に存在することも示す.

ℓ進ガロアポリログとその関数等式について

白石 伝助 (東京理科大学)

従来のポリログとは, $3$ 点抜き射影直線上の道に沿った反復積分として定義される対象であり, 形式的 KZ 方程式の基本解を記述する特殊関数であった. 一方で, 2000 年頃に Wojtkowiak は, 任意の素数 $\ell$ に対して, $\ell$ 進反復積分を導入し, ポリログの $\ell$ 進エタール類似物である $\ell$ 進ガロアポリログを定義した. これは $3$ 点抜き射影直線上の副 $\ell$ エタール道への基礎体の絶対ガロア群の作用を記述する $\ell$ 進特殊関数である. さて, ポリログの関数等式の研究は $18$ 世紀の Euler や Landen 等の研究に始まる長い歴史があり, 現在に至るまで数多くの関数等式が知られている. 一方で, $\ell$ 進ガロアポリログの関数等式については, 中村博昭–Wojtkowiak の共同研究によりいくつかの典型的な関数等式が導出されていたが, そのリストの追加が課題とされていた. 本講演では, $\ell$ 進ガロアポリログの関数等式について講演者が得た結果を紹介する.

Bertrand–Chebyshev の定理と Brocard–Ramanujan 問題

武田 渉 (東邦大学)

Brocard–Ramanujan 問題は $x^2 −1 = n!$ の整数解 $(x, n)$ を見つけるというものである. この問題はまだ未解決である一方, $P(x) = n!$ が有限個の解 $(x, n)$ しか持たないような多項式 $P(x) \in\mathbb Z[x]$ が多く存在することが分かっている. 特に $N_K$ を代数体 $K$ のノルム形式としたとき, 方程式 $N_K(x) = n! $ の解 $(x, n)$ は単元倍を除き有限であることが知られている.

本講演では知られている解の上限を具体的に述べて, ある無限族に含まれる場合は大幅に改善できること, および, すべての解を得ることを紹介する. また, 証明のカギとなるある種の代数体における Bertrand–Chebyshev の定理の類似と関係についてもお話しする.

有限体上の志村曲線の有理点について

寺門 康裕 (東京電機大学)

四元数乗法を持つアーベル曲面のモジュライ空間は,志村曲線とよばれる.本講演では,有限体上の志村曲線の有理点の存在や数え上げに関する研究を紹介する.特に,素体上定義された超特異点の個数が,四元数環に関するアイヒラーの跡公式によって表されることについてお話ししたい.本講演は Jiangwei Xue と Chia-Fu Yu との共同研究に基づく.

On generators of υ-adic multiple zeta values in positive characteristic

三柴 善範 (東北大学)

$v$ を有限体上の $1$ 変数有理関数体の有限素点とする.$v$ 進多重ゼータ値は,Thakur によって定義された無限進多重ゼータ値の $v$ 進類似物であり,まだまだ分かっていないことの多い興味深い対象である.本講演では,$v$ 進多重ゼータ値が生成する空間の次元予想と生成元の候補について議論する.

モジュラス付きモチーフとその実現について

宮﨑 弘安 (NTT 基礎数学研究センタ)

代数多様体のコホモロジーには様々なものが存在するが,それらの背後にはモチーフと呼ばれる普遍的対象(共通構造)が存在すると期待されている.実際,Grothendieck は非特異射影的な代数多様体の「良い」コホモロジーである Weil コホモロジーに対するモチーフ理論として純モチーフ(Chow モチーフ)を構成した.その後,花村・Levine・Voevodsky は独立に,Chow モチーフの非特異代数多様体への一般化として混合モチーフを構成した.混合モチーフは,大雑把には,$\mathbb{A}^1$-ホモトピー不変性を満たすコホモロジーを統御する理論といえる. 本講演では,混合モチーフを一般化するモジュラス付きモチーフ理論の概略を説明し,これが $\mathbb{A}^1$-ホモトピー不変性を満たさないようなコホモロジーのあるクラスの共通構造となっていることを説明する.

本講演は Bruno Kahn 氏,齋藤秀司氏,山崎隆雄氏,Shane Kelly 氏,小泉淳之介氏との一連の共同研究に基づく.

津田塾大学整数論ワークショップ2024 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)