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津田塾大学整数論ワークショップ  2023

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講演概要

講演者五十音順・敬称略.講演概要の印刷用 pdf ファイルはこちらからどうぞ→

記号凡例: : 黒板での講演, : プロジェクターでの講演

※ いずれの講演も,オンラインでの参加者には Zoom でのオンライン配信をいたします

Kida's formula via Selmer complexes

片岡 武典 (東京理科大学)

岩澤理論において,岩澤不変量は加群の大きさを反映した基本的な不変量である.CM 体上の不分岐岩澤加群のマイナス部分に関して,木田は CM 体が拡大するときの岩澤不変量の振る舞いを記述する公式を得た.その後,楕円曲線の Selmer 群に関する八森–松野の結果をはじめとして,岩澤理論の様々な分野で木田の公式の類似が発見されている.この講演では,Selmer 複体の観点に基づき,木田の公式やその様々な類似を導く新たな手法を与える.

ある種数 1 の曲線族における有理点を持つものの割合について

金村 佳範 (慶應義塾大学)

Bhargava は $z^2=f(x,y)$($f(x,y)$ は整数係数 $2$ 元 $4$ 次形式)で表される種数 $1$ の曲線全体で有理点を持つものの割合が正であることを示した.この結果を示す際,楕円曲線全体の族で $2$-Selmer 群の平均位数を決定した Bhargava–Shankar の結果が重要な役割を果たした.その後,Bhargava–Ho は楕円曲線の特定の部分族で $2$-Selmer 群の平均位数を決定し,上記の種数 $1$ の曲線族の中でも特定の部分族で有理点を持つものの割合を特定した.本講演では,先行研究で扱われている種数 $1$ の曲線族より更に小さな部分族で,有理点を持つものの割合を評価することを考える.

本講演は九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の石塚裕大氏との共同研究に基づくものである.

金子–津村型多重ゼータ関数の特殊値の交代和について

川﨑 菜穂 (弘前大学)

金子–津村型多重ゼータ関数は,Riemannゼータ関数の多重化の一つである.

この多重ゼータ関数の正の整数点における特殊値には,多重ゼータスター値が現れることが知られている.

本講演では,金子–津村型多重ゼータ関数の正の整数点における特殊値の交代和に対して,多重ゼータスター値との関係式を与えたので,このことについて紹介したい.

Square-free レベルの 2 次 Siegel カスプ形式に対する Rankin–Selberg 積分について

久家 聖二 (上智大学)

Andrianov は,フルレベルの $2$ 次 Siegel カスプ形式の Fourier 係数から作られる Dirichlet 級数とスピノール $L$ 関数の関係式や,それらの関数等式を,Rankin–Selberg積分を計算することにより導いた.

本講演では,Pitale–Schmidt らによる $GSp(2)$ の Bessel 模型に関する結果に基づき,Square-freeレベルの $2$ 次 Siegel カスプ形式に対する Rankin–Selberg 積分を oldform の場合も含めて与える.また余裕があれば,スピノール $L$ 関数の中心値のある種の平均に関する漸近公式についても述べる.本研究は都築正男氏との共同研究である.

p 進エタール Tate 捻りについて

金野 太郎 (東京工業大学)

有限体上の多様体上には Tate 捻りと呼ばれるエタール層が存在し, Poincaré 双対定理を満たすことが知られています. Tate 捻りの代数体上の多様体上の類似は $p$ 進エタール Tate 捻りと呼ばれています. 中央大学の佐藤先生によってある条件を持った多様体上で $p$ 進エタール Tate 捻りが存在し, 双対定理を満たすことが示されました. この双対定理は有限体上の場合の Poincaré 双対定理の類似です.

本講演では $p$ 進エタール Tate 捻りの存在と双対定理について現在まで知られている結果の紹介と時間が許せば講演者による最近の研究についてお話させていただきます.

On local epsilon factors of vanishing cycles for tamely ramified sheaves

竹内 大智 (理化学研究所革新知能統合研究センター)

$X$ を有限体 $k$ 上の滑らかな射影多様体とし,$\ell$ を $k$ の標数とは異なる素数とする.$X$ 上の $\ell$ 進層 $\mathcal{F}$ に対し,そのコホモロジーは $k$ の絶対 Galois 群の $\ell$ 進表現となる.このコホモロジーの判別式指標に Frobenius 元を代入して得られる $\ell$ 進数を $\mathcal{F}$ の大域イプシロン因子と呼ぶ.$X$ が曲線の場合には大域イプシロン因子は局所イプシロン因子の積で書けることが知られている(Laumonの積公式).一方で,$X$ が高次元の場合にはイプシロンサイクルを用いることで,$1$ の冪根を無視した大域イプシロン因子を求めることができる.本講演では、$1$ の冪根を無視せずにイプシロン因子を求めるためにはどのようにイプシロンサイクルを精密化するべきかについて,$\mathcal{F}$ が順分岐を持つという仮定の元,お話ししたい.

周期の有限類似とその応用

田坂 浩二 (愛知県立大学)

代数的数が Artin モチーフの周期であるという事実のある種の $p$ 進的な対応物として,有限代数的数というものが J. Rosen (2020) により導入された.線形漸化式をみたす数列をつかって具体的に記述できる対象である.このことを使って,近年,Rosen 氏,竹山氏,山本氏との共同研究で,有理数体上のガロア拡大体における素数の分解法則を線形漸化式をみたす数列で記述するような結果を得た.このあたりのことを ‘周期の有限類似’ とよばれる対象も絡めつつお話をしたい.

The p-adic constant for mock modular forms associated to CM forms

田島 凌太 (九州大学)

Let $g \in S_{k}(\Gamma_{0}(N))$ be a normalized newform and $f$ be a harmonic Maass form that is good for $g$. The holomorphic part of $f$ is called a mock modular form and denoted by $f^{+}$. For odd prime $p$, K. Bringmann, P. Guerzhoy, and B. Kane obtained a $p$-adic modular form of level $pN$ from $f^{+}$ and a certain $p$-adic constant $\alpha_{g}(f)$. When $g$ has complex multiplication by an imaginary quadratic field $K$ and $p$ is split in $\mathcal{O}_{K}$, it is known that $\alpha_{g}(f)$ is zero. On the other hand, we do not know much about $\alpha_{g}(f)$ for an inert prime $p$. In this talk, we prove that $\alpha_{g}(f)$ is a $p$-adic unit when $p$ is inert in $\mathcal{O}_{K}$ and $\dim_{\mathbb{C}}S_{k}(\Gamma_{0}(N))=1$.

合流型超幾何による多変数超幾何の積分表示の有限体類似

中川 彬雄 (金沢大学)

複素数体上の Appell–Lauricella 多変数超幾何関数という Gauss 超幾何関数の多変数化があり,それらは特定の代数多様体の複素周期とみなせる.一方,それら超幾何関数の有限体類似も知られており,それらは同じ多様体を有限体上で考えたときの有理点の個数に現れる.

超幾何関数の中には,合流型超幾何と呼ばれるものがあり,最近になって有限体上でもこれらを自由に扱えるようになった.本講演では,有限体上の Appell–Lauricella 関数を合流型超幾何の積の和で表せるということを紹介する.これらのうちいくつかは,複素数体上で知られている積分表示の類似になっている.また,合流型超幾何の積公式を併せて用いることで有限体上の超幾何関数の種々の公式が得られるのでそれらについても紹介する.

Extendability of the period map on M0,n

前田 洋太

モジュライ空間上の周期写像がいつ境界上で定義されるのか,言い換えればモジュライ空間の境界にどのようなモジュライ理論的解釈を与えられるのかという問題を考える.この問題は例えば曲線のモジュライ空間 $\mathcal{M}_g$ の場合は Mumford,Namikawa,Alexeev,Birkenhake,Hulek らによって研究されており,コンパクト化の取り方によって複雑な様相を呈している.以下では $\mathcal{M}_{0,n}$ を考察する.この場合は,I 型領域の算術商に周期写像を持つことが知られている.近年,適切なブローアップを通してトロイダルコンパクト化にこの周期写像が伸びることが示された.本講演では超楕円曲線のモジュライ空間を含む,$\mathcal{M}_{0,n}$ の対称群による商を考える.この状況で,Deligne–Mostow 理論に現れる全ての多様体について,上記の結果が成り立たないことを示す.本研究は Klaus Hulek 氏との共同研究に基づく.

津田塾大学整数論ワークショップ2023 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)