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津田塾大学整数論ワークショップ  2022

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講演概要

講演者五十音順・敬称略.講演概要の印刷用 pdf ファイルはこちらからどうぞ→

記号凡例: Z: Zoom でのオンライン講演, : 黒板での講演, : プロジェクターでの講演

※ いずれの講演も,オンラインでの参加者には Zoom でのオンライン配信をいたします

高さ函数の Northcott 数   ~有限と無限を分かつもの~

岡﨑 勝男 (九州大学)

Weil 高さとは,代数的数の “複雑さ” を数値化する函数であり,「任意の代数体 $K$ と正の数 $C$ に対して,$K$ の元の内 Weil 高さの値が $C$ 未満である元全体は有限集合である」という有限性を満たします. これは例えば Mordell–Weil の定理の証明にも用いられ,整数論に於いてとても基本的な事実です.

一方で,$L$ が $\mathbb{Q}$ の無限次拡大である場合は,上記の有限性が成り立つとは限らず,$L$ の元の内 Weil 高さの値が $C$ 未満である元全体は,$C$ の値によって有限集合になったり無限集合になったりします. 従って,上記集合が有限集合から無限集合に切り替わる瞬間の正の数 $C$ を考える事が出来,これは「体 $L$ の Northcott 数」呼ばれています. 体の Northcott 数を計算する事は体の有限性を調べるに際してとても基本的である様に思われ,実際,2016年に Vidaux と Videla によって「体の Northcott 数として実現される正の実数を決定せよ」という問題が出題されています.

今回,この問題を (2つの方向に一般化した上で) 完全に解決しましたので,それを紹介いたします. 本研究は同志社大学の佐野薫さんとの共同研究です.

A system of certain linear Diophantine equations on analogs of squares

齋藤 耕太 (筑波大学)

This study investigates the existence of tuples $(k,\ell,m)$ of integers such that all of $k$, $\ell$, $m$, $k+\ell$, $\ell+m$, $m+k$, $k+\ell+m$ belong to $S(\alpha)$, where $S(\alpha)$ is the set of all integers of the form $\lfloor \alpha n^2\rfloor$ for $n\geq \alpha^{-1/2}$ and $\lfloor x\rfloor$ denotes the integer part of $x$.

We show that $T(\alpha)$, the set of all such tuples, is infinite for all $\alpha\in (0,1)\cap\mathbb{Q}$ and for almost all $\alpha\in (0,1)$ in the sense of the Lebesgue measure. Furthermore, we show that if there exists $\alpha>0$ such that $T(\alpha)$ is finite, then there is no perfect Euler brick. This is joint work with Yuya Kanado (Nagoya University).

モジュラー形式のヘッケ固有値の整数性とそのヘッケ体への応用

杉山 真吾 (日本大学)

楕円モジュラー形式の空間にはヘッケ作用素が作用し,ヘッケ作用素の固有値が代数的整数になるという結果はよく知られている.本講演では,重さとレベルが一般のヒルベルトモジュラー形式とジーゲルモジュラー形式の場合にヘッケ作用素の固有値が代数的整数であることを紹介する.また応用として,素数 $d$ に対する ${\rm GL}(2d)$ や正整数 $n$ に対する ${\rm Sp}(2n)$ のカスピダル保型表現のヘッケ体の次数の増大度評価も紹介する.

本研究は佐久川憲児氏 (信州大学) との共同研究である.

相互層としての加法群のテンソル積の構造について

杉山 倫 (日本女子大学)

Kahn–Saito–Yamazaki (Kahn–Miyazaki–Saito–Yamazaki) によって導入された相互層の理論及びモジュラス層の理論により,ホモトピー不変でない対象についてもモチーフ論的な探求が可能となった.またホモトピー不変層に対するテンソル構造は上記の理論たちに拡張され,その基本的な特徴は共著論文 (Rülling–Sugiyama–Yamazaki) において示し,特に加法群 $\mathbb{G}_a$ 二つのテンソル積の構造を解明した.しかし,3つ以上のテンソル積の構造については明らかになっていない.今回は,3つ以上の加法群のテンソル積の構造について現在取り組んでいる研究の状況を報告する.

巡回多項式と冪整基底問題

関川 隆太郎 (東京理科大学)

与えられた代数体の整数環が,$\mathbb{Z}$ 上 $1$ 元生成できるとき,冪整基底をもつという.本講演では,素数 $p$ 次巡回拡大 $K/\mathbb{Q}(\zeta_p+\zeta_p^{-1})$ について,陸名多項式と呼ばれる生成的多項式を用いて,相対冪整基底が存在する十分条件を与え,その条件を満たす無限族の存在を証明する.

陸名多項式は $\mathbb{Q}(\zeta_p)$ から $\mathbb{Q}(\zeta_p+\zeta_p^{-1})$ への $2$ 次降下 Kummer 理論として定式化できることが知られている.残った時間で,木田による $\mathbb{Q}(\zeta_p)$ から $\mathbb{Q}$ への $p-1$ 次降下 Kummer 理論として計算できる巡回多項式,特に単数を根にもつものについての現状を報告したい.

The Iwasawa Invariants of Zpd-covers of links

舘野 荘平 (名古屋大学)

It is known that there are deep analogies between algebraic number theory and low dimensional topology. Hillman–Matei–Morishita and Kadokami–Mizusawa proved an analogous theorem for links corresponding to Iwasawa's class number formula. In this talk, as Cuoco–Monsky generalized Iwasawa's formula to $\mathbb{Z}_p^d$-extensions, we will give two asymptotic formulae for the first homology groups of $\mathbb{Z}_p^d$-covers of $d$-component links in rational homology $3$-spheres. Moreover, when $d=2$, we will explain that Iwasawa $\mu$-invariants can be arbitrarily large by giving the invariants of twisted Whitehead links. This is a joint work with Jun Ueki.

CMを持つ楕円曲線のL関数の特殊値の超幾何関数表示

根本 裕介 (千葉大学)

虚数乗法を持つ楕円曲線のL関数の $s=1$ での特殊値はガンマ関数を用いて表されることが知られている.近年,伊東,大坪,Rogers–Zudilin,Zudilinらの研究によって,導手が $27$,$32$,$64$ の楕円曲線の $L$ 関数の $s=2$ での特殊値が一般超幾何関数 ${}_3F_2(z)$ の $z=1$ での特殊値を用いて記述できることがわかった.

本講演では,導手が $36$ の楕円曲線に対しても同様に,$L$ 関数の $s=2$ での特殊値が一般超幾何関数 ${}_3F_2(z)$ の $z=1$ での特殊値で記述できることを紹介する.

総実体のポリログの Hodge 実現と新谷生成類

戸次 鵬人 (慶應義塾大学)

古典的なポリログとは,対数関数の反復積分で定義される $\mathbb{G}_m-\{1\}$ 上の(多価)関数であるが,1の冪根での値が Dirichlet $L$ 関数の値を記述しており,さらに motivic な対象であることが知られている.そしてその帰結として Dirichlet $L$ 関数に対する Beilinson 予想が導かれることが知られている.本講演では,このようなストーリーを総実体上の Hecke $L$ 関数へと拡張する試みについて,現在までに分かったことや困難なこと,予想されることを解説したい.本研究は,坂内健一氏,萩原啓氏,大下達也氏,山田一紀氏,山本修司氏との共同研究に基づく.

3次元実多様体に付随する偽テータ関数の漸近展開と量子不変量

村上 友哉 (東北大学)Z

3次元トポロジーの重要課題である量子不変量の漸近挙動の研究は,近年モジュラー形式論の手法を援用した成果が挙げられている.本講演では3次元多様体に関する Gukov–Pei–Putrov–Vafa 予想を条件付き鉛管ホモロジー球面に対して解決したという講演者の最近の結果を紹介する.証明の要は偽テータ関数と有理関数の漸近展開を比較する手法である.

実二次体の円分 Zp 拡大上の楕円曲線の保型性

吉川 祥 (学習院大学)

Jack Thorneは,任意の素数 $p$ に対して,有理数体の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大上で定義されたすべての楕円曲線が保型的であることを証明した.証明のアイディアは,保型性がわかっていない楕円曲線はあるモジュラー曲線上の点を定めることを示し,そのモジュラー曲線の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大点を(楕円曲線の岩澤理論の結果を用いて)調べるということである.最近になり,Xinyao ZhangはThorneの結果の二次体類似を考え結果を得た.

本講演でも同様な二次体類似をテーマとし,Zhangの結果をもとに講演者が最近得た結果を紹介する.上記のThorneのアイディアを,あるモジュラー曲線とその二次捻り (quadratic twist) に対して適用する,という点が証明のポイントとなる.

津田塾大学整数論ワークショップ2022 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)