tu 津田塾大学整数論ワークショップ2021 [講演概要]
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津田塾大学整数論ワークショップ  2021

最終更新日:

講演概要

講演者五十音順・敬称略.講演概要の印刷用 pdf ファイルはこちらからどうぞ→

記号凡例: Z: Zoom でのオンライン講演, : 黒板での講演, : プロジェクターでの講演

※ いずれの講演も、オンラインでの参加者には Zoom でのオンライン配信をいたします

de Rham (φ, Γ) 加群と p 進微分方程式の局所 ε 予想

石田 哲也 (佐賀大学)Z

$p$ 進数体の絶対ガロア群の $p$ 進表現の一般化として,Fontaine は $(\varphi, \Gamma)$ 加群を定義した.これに関連して中村は,加藤の $p$ 進表現に対する局所イプシロン予想を一般化する形で,Robba 環上の $(\varphi, \Gamma)$ 加群に対して予想を定式化した.一方で Berger は,de Rham という性質を持つ $(\varphi, \Gamma)$ 加群を補正することで,より構造が簡単な $p$ 進微分方程式を構成した.本講演では,de Rham $(\varphi, \Gamma)$ 加群の円分変形族についての予想を,付随する $p$ 進微分方程式の円分変形族についての予想に帰着できることについて解説する.本講演の内容は中村健太郎氏との共同研究に基づく.

重さ 3 のテータ積の L 関数の特殊値の超幾何関数表示

伊東 良純 (千葉大学)Z

虚数乗法を持つ楕円曲線の $L$ 関数の $s=1$ での特殊値はガンマ関数を用いて表されることが古典的に知られている.近年,特定の場合に,より一般の整数点での値が一般超幾何関数という特殊関数を用いて表されることがわかってきた.例えば,2012年,Rogers–Zudilin は導手 27 の楕円曲線の $L$ 関数の $s=2$ での値を解析的な手法を用いて一般超幾何関数の特殊値で表した.

本講演では,Rogers–Zudilin 法を用いて,Jacobi テータ級数または Borweins テータ級数の積で表される重さ3の保型形式の $L$ 関数のいくつかの整数点での特殊値を,一般超幾何関数やその二変数への一般化である Kampé de Fériet 超幾何関数の特殊値で表す.

ゼロサイクルのなす Chow 群の普遍的自明性と不分岐対数的 Hodge–Witt コホモロジーの自明性について

小田部 秀介 (東京電機大学)Z

不分岐コホモロジーは Noether 問題などにおいて重要な道具だが,その代数幾何的側面に関して得た結果があるのでそのお話しをしたい.本研究は東北大学の甲斐亘氏と山崎隆雄氏との共同研究である.

以下でもう少し概要を述べる. Auel–Bigazzi–Böhning–Graf von Bothmer は,標数 $p>0$ の体上の固有スムーズ代数多様体が普遍的に自明なゼロサイクルのなす Chow 群を持つならばそのコホモロジカル・ブラウアー群も自明であることを示した.$p^\prime$-ねじれ部分が自明なことは Merkurjev による古典的結果から従うので,$p$-ねじれ部分のギャップを克服したということである.一方,最近になってこの手のコホモロジーの自明性は相互層の一般性質として説明できるということが Binda–Rülling–Saito によって明らかにされた.例えば,不分岐対数的 Hodge–Witt コホモロジーが相互層の非自明な例を与える.今回,不分岐対数的 Hodge–Witt コホモロジーの自明性について移動補題に基づく別証明を与えたので,そのことについてお話ししたい.

On a unified double zeta function of Mordell–Tornheim type

小野 雅隆 (早稲田大学)

多重ゼータ値の変種である有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値は,全く異なる空間に定義される対象でありながら,有理数体上全く同一の代数関係式を満たすことが金子と Zagier によって予想されており,近年活発に研究されている.有限多重ゼータ値はインデックスが非正の場合でも定義されるが,対称多重ゼータ値はアプリオリには定義できない.小森は対称多重ゼータ値の自然な複素補間となるゼータ函数を導入することでこの困難を克服し,インデックスが非正の場合に金子–Zagier予想が拡張されることを示した.この講演では小森の補間多重ゼータ函数を Mordell–Tornheim 型の場合について考察する.またインデックスが非正の場合に金子–Zagier予想の類似物が得られることも紹介する.この講演は門田慎也氏 (新居浜工業高等専門学校),岡本卓也氏 (豊橋技術科学大学),田坂浩二氏 (愛知県立大学) との共同研究に基づく.

Norm one tori and Hasse norm principle

金井 和貴 (新潟大学)

Hasse norm principle (HNP) は,代数体の拡大に対して局所的なノルムの束ね合わせと大域的なノルムの “ずれ” が存在しないことを表す原理であり,Hasse により巡回拡大に対して,成立することが示された (1931).しかしながら,一般には不成立であり,不成立となる必要十分条件を与えることが重要な問題となる.

今回,Drakokhrust–Platonov (1986) による理論をもとに,Voskresenskii (1969),遠藤静男氏と宮田武彦氏 (1975),Colliot-Thélène–Sansuc (1977) らによる代数的トーラスの理論と,計算機によるコホモロジー論的不変量の計算を併せて用いることで,15次以下の代数体に対して,HNP が不成立となる必要十分条件を分解群による条件で与えることに成功した.この結果について,具体例を中心とした解説を試みる.星明考氏 (新潟大学),山崎愛一氏 (京都大学) との共同研究.

新谷リフトの内積公式

源嶋 孝太 (大阪市立大学)Z

重さ $2k-2$ の楕円カスプ形式の空間 $S_{2k-2}$ から重さ $k$, 指数 $1$ のヤコビカスプ形式の空間 $J_{k,1}^{\mathrm{cusp}}$ への保型形式の持ち上げが存在する.楕円カスプ形式 $f \in S_{2k-2}$ からこの持ち上げにより構成されるヤコビカスプ形式 $\mathcal{L}(f) \in J_{k,1}^{\mathrm{cusp}}$ は $f$ の新谷リフトと呼ばれる.

 この講演では新谷リフトをアデール群上の保型形式の言葉で再定式化する.また,$f$ と $\mathcal{L}(f)$ のノルムの比が $f$ の $L$-関数の中心値を用いて記述されることを報告する.

Signature を用いたグレブナ基底を求めるアルゴリズムとその応用

坂田 康亮 (東京大学)

グレブナ基底は多変数多項式環上の良い性質を持つ多項式の集合であり,計算代数学の分野では連立多変数多項式の解法として使われていたり,その他多くの応用研究が行われている.Signature を用いたグレブナ基底を求めるアルゴリズムは,2001年に J.-C. Faugère が提案した F5 アルゴリズムを起源としており,これまでのアルゴリズムと比べて無駄な計算 (zero reduction) を多く省くことが可能なアルゴリズムとして知られている.

今回,Signature を用いたアルゴリズムとその効率化手法を紹介し,その応用一つである暗号分野への応用を紹介する.

偶奇の異なる友愛数について

鈴木 雄太 (立教大学)

友愛数とは正の整数の組 $(A,B)$ であって,片方の自分自身を除く約数の和がもう片方になるもののことを言う.この友愛数に関して「偶奇の異なる組からなる友愛数は存在しないだろう」という古くからの予想があるが,現在でも未解決である. もし偶奇の異なる友愛数が存在すれば,奇数 $M,N$ と正の整数 $a$ を用いて $(A,B)=(2^aM^2,N^2)$ と書けることが容易に分かる.したがって,与えられた実数 $X$ 以下の偶奇の異なる友愛数の個数を $A_1(X)$ と書くことにすれば,$A_1(X)\ll X^{\frac{1}{2}}(\log\log X)^{\frac{1}{2}}$ 程度の事がわかる.さらに Pollack は Iannucci と Luca の手法を使えば,更に強く $A_1(X)\ll X^{\frac{1}{2}}/(\log X)^{\frac{3}{2}+o(1)}$ であることが従うと注意した.本講演ではこれをさらに推し進め,ある正の定数$c$に対して $A_1(X)\ll X^{\frac{1}{2}}\exp(-c(\log X\log\log\log X)^{\frac{1}{2}})$ という評価が成立することを示す.

保型形式に伴う Galois 表現の Tate–Shafarevich 群と代数体のイデアル類群について

臺信 直人 (慶應義塾大学)Z

代数体のイデアル類群と楕円曲線の Tate–Shafarevich 群の間には様々な関係があることが古くから意識され,研究されてきた.そのような研究の中でも最近 Prasad と Shekhar は,$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ と素数 $p$ に対し,$E$ の Tate–Shafarevich 群の位数が $p$ で割れれば,$E$ の $p$ 等分点を $\mathbb{Q}$ に添加した体 $\mathbb{Q}(E[p])$ のイデアル類群が Galois 加群として $E[p]$ を商として持つことを,いくつかの仮定の下で証明した.本講演ではこの Prasad と Shekhar の結果に対し,

  1. $\mathbb{Q}(E[p])$ のイデアル類群が商として $E[p]$ 以外の Galois 加群を持つ場合
  2. 楕円曲線の$p$等分点に付随する代数体 $\mathbb{Q}(E[p])$ より一般に,保型形式に伴う法 $p$ 表現の核に対応する代数体 (のイデアル類群) を考える場合

の二つを扱い,得られた一般化について紹介する.

Weber 問題に関する相対単数と結び目の話題

吉﨑 彪雅 (東京理科大学)

本講演は,Weber 問題に関する二つの内容を,前半と後半に分けて紹介する.

前半:Weber 問題とは,素数 $p$ に対し,有理数体上の $\mathbb{Z}_p$ 拡大の中間体の類数を問う問題である.一方で,類数と単数群とは密接に関係しており,特に相対単数の (いろいろな) サイズを評価することで,類数研究は進展してきた.今回は,小松–岡崎氏によって予想された,$p=2$ の場合の相対単数のサイズに関する予想を紹介する.そして,予想の精密化と部分的解決を紹介したい.

後半:代数体と三次元多様体の間には,素イデアルと結び目の類似性を軸とした興味深い類似が多く指摘されている.たとえば,Weber 問題の舞台である有理数体上の $p$ 冪巡回拡大塔の類似として,三次元球面の分岐 $p$ 冪巡回被覆塔がある.また,各被覆空間の一次ホモロジー群をイデアル類群の類似とすることで,Weber 問題の類似が考えられる.今回,結び目においても数論側のWeber問題と同様の結果 (類数の収束性) が得られたため,例と共に紹介したい.

本講演は,前半は加塩朋和氏 (東京理科大学),後半は植木潤氏 (東京電機大学) との共同研究に基づくものである.

津田塾大学整数論ワークショップ2021 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)