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津田塾大学整数論ワークショップ  2020

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講演概要

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Twisted cyclic resultants and Iwasawa invariants of knots and links

植木 潤 (東京電機大学)

結び目や絡み目の $\mathbb{Z}$ 被覆を考える.$n$ 次巡回被覆の $H_1$ のトーションの位数は,(被約)アレクサンダー多項式 $\Delta(t)$ に $1$ の $n$ 乗根を代入した値の積(cyclic resultant)に一致する.その漸近挙動は Mahler 測度 $M$ によって記述され,$\log M$ はアレクサンダー加群の位相的 / 代数的エントロピーに一致する.また同じ状況で素数 $p$ を取り $H_1$ の $p$ トーションを考えると,$\Delta(t)$ の $p$ 進高さ $M_p$ が Mahler 測度の役割を果たし,Bowen の $p$ 進エントロピーと解される.さらに $n$ が $p$ 冪を走るときは,漸近公式の精密化として岩澤類数公式の類似が成り立つ.岩澤 $\mu$ 不変量は $M_p$ に一致し,岩澤 $\lambda$ 不変量は結び目や絡み目の $p$ 進種数と解される.

これらを $\mathrm{SL}_2$ 表現で捻った version とその応用可能性について,双曲体積の副有限剛性や epimorphism 問題などと絡めて概説する.本講演の内容の一部は丹下稜斗氏(早稲田大学)との共同研究に基づく.

Big Heegner 点と Heegner サイクル

太田 和惟 (大阪大学)

Big Heegner 点とは,Howard によって構成された,肥田変形のガロワ表現に付随するオイラー系で,Heegnerサイクルは,楕円保型形式のガロワ表現に付随するオイラー系である.肥田変形が楕円保型形式を補間するように,big Heegner点 が Heegner 点を補間するかどうかが Howard によって問題として提起されており,近年 Castella によってこれが解決された.本講演では,Castella とは違うアプローチをとり,彼の課していた仮定を取り除くことができるということを解説する.

Lubin–Tate 形式群に附随するある反復拡大と代数群のねじれ部分について

小関 祥康 (神奈川大学)

$p$ 進局所体 $k$ とその素元が与えられると,Lubin–Tate 形式群 $F$ が定義される.$F$ や,そのねじれ部分を全て $k$ に添加して得られる $k$ の Lubin–Tate 拡大体は局所類体論等で重要な役割を果たす.この講演では,その Lubin–Tate 拡大体よりもとても大きなある「$F$ に付随する反復拡大体」 $L$ を考え,適当な条件下では代数群の $L$ に値をとる有理点の成す群のねじれ部分が有限となることを述べる.

異なるシフトをもつ Lerch 関数の特殊値の線型独立性について

川島 誠 (日本大学)

Lerch 関数は多重対数関数の一般化である. 本講演では,Lerch 関数を更に一般化した Lerch 型関数の Padé 近似の構成を紹介し,応用として,異なるシフトをもつ Lerch 関数の異なる代数的数における値が代数体上線型独立であるための十分条件を与える.本研究は Sinnou David 氏 (Sorbonne University) と平田(河野)典子氏 (日本大学) との共同研究の一部である.

超特異曲線・超特別曲線の明示的構成と関連する計算問題について

工藤 桃成 (東京大学)

超特異曲線とはヤコビ多様体が超特異楕円曲線の直積に同種となるような非特異曲線のことであり,特に直積に同型となるようなものは超特別曲線と呼ばれる.超特異曲線や超特別曲線はそれら自身興味深い研究対象であるだけでなく,曲線のモジュライ空間の理解や,有理点を多くもつ有限体上の曲線の構成などにおいても重要な役割を果たす.また,近年,これらの曲線(のうち特に低種数のもの)は量子計算機に耐性をもつ暗号の候補である同種写像暗号のパラメータとしても期待されるなど,暗号分野においても注目が高まってきている.

種数と標数が与えられたときに,これらの曲線の存在・非存在(および,存在する場合は定義体)を決定することは基本的な問題であり,種数3以下の場合には主に整数論的な手法によって多くの先行結果が得られている.本講演では,種数4以上の場合における超特異曲線や超特別曲線の明示的な構成方法を紹介する.特に,種数4, 5のとき,無限個の素数に対してこれらの曲線が存在することを構成的に示す.また,時間があれば,これらの曲線(あるいは一般の代数曲線)にまつわる計算問題をいくつか取り上げ,講演者による解法アルゴリズムと計算結果や,同種写像暗号との関連性について触れる.

総実8次代数体の類数評価を用いた円分 Z2-拡大における Greenberg 予想の判定法について

隈川 直貴 (元早稲田大学)

Greenberg 予想とは,総実代数体上の円分 $\mathbb{Z}_{l}$-拡大における ($l$ は素数, $\mathbb{Z}_{l}$ は $l$ 進整数環) 岩澤の $\lambda$-不変量も $\mu$-不変量も $0$ になるであろうという予想である.本講演では,ある数論的条件を満たす実二次体上の円分 $\mathbb{Z}_{2}$-拡大における岩澤の $\lambda$-不変量について考察する.特に,上の実二次体に依存して定まる総実 $8$ 次代数体の類数の $2$-部分が $8$ になれば,上の場合の岩澤の $\lambda$-不変量が $0$ になるという判定法を与える.本講演の後半では,上記 の $8$ 次代数体の類数の $2$-部分の上からの評価を Sinnott の円単数群を用いて与える.

多変数連結和と多重ポリログの関数関係式について

関 真一朗 (東北大学)

山本修司氏との共同研究で導入した連結和(トポロジーにおける同名の概念とは無関係)はその輸送関係式を用いることによって多重ゼータ値の双対関係式を導いた.本講演では,関–山本の連結和を多変数化した新しい連結和およびその輸送関係式を紹介する.これは多重ポリログの関数関係式を大量に導くが,その一部についても紹介する.本研究は川村花道氏(清風高校)および前阪拓己氏(金沢大学附属高校)との共同研究である.

対称化多重 Bernoulli 数の組合せ的解釈について

松坂 俊輝 (名古屋大学)

負の指数を持つ多重 Bernoulli 数は整数値をとり,Lonesum 行列や Callan 順列の数え上げなど,その組合せ的な解釈が様々に考えられている.2018年,金子–櫻井–津村は多重 Bernoulli 数のある種の拡張を考察しており,同様にその組合せ的意味を問うことは面白い問題であろうと論文中に記している.本講演では,彼らの問いに答える形で3種類の組合せ的モデルを与え,またそこから得られるいくつかの関係式を紹介したい.本研究は Beáta Bényi氏(University of Public Service)との共同研究である.

Rational points on hyperelliptic curves

松村 英樹 (慶應義塾大学)

本講演では,有理数体上の超楕円曲線の有理問題の具体例として以下の3つの結果をご紹介する.

  1. 周の長さ同士が等しく,また面積同士が等しい有理三角形の組は相似を除いてただ1つしか存在しない (JNT, 2019).
  2. 整数 $i$, $j$ とある種の合同条件を満たす素数 $p$ でパラメータ付けられた超楕円曲線の無限族 $C^{(p\,;\,i,j)}$ の有理点集合を決定する (arXiv:1904.00215v2).
  3. (2) の $j=2$ の場合を拡張する (論文は現在準備中).

(1) の証明には,超楕円曲線の Jacobi 多様体の2降下法及び Chabauty–Coleman 法を用いる.(2) の証明には,2降下法及び Grant による Lutz–Nagell 型定理を用いる.(3) の証明には,covering technique 及び楕円曲線の2降下法を用いる.

(1) 及び (2) は平川義之輔氏との共同研究,(3) は単独研究である.

Discrepancy bounds for L-functions of cusp forms in the level aspect

峰 正博 (東京工業大学)

ゼータ関数や $L$ 関数の値分布に対して,それらを何らかの確率論的対象に見立てて研究するという考え方がある.とくにゼータ関数や $L$ 関数とそうした確率論的対象との比較に関して,discrepancy bound と呼ばれる,ある種の二つの確率測度の差の評価が研究されている.Riemann ゼータ関数の場合には,松本耕二氏が1980年代に先駆的な研究を行い,その後の様々な改良を経て,最近では Lamzouri–Lester–Radziwiłł がより洗練された discrepancy bound を得た.本講演では,重さ2・素数レベルの正則カスプ形式のある種の族に対して,その保型 $L$ 関数の値分布を考察する.このような設定においては,跡公式に基づく確率論的研究が近年進められている.とくに講演者は最近,Lamzouri–Lester–Radziwiłł の結果とほぼ同等(部分的には僅かな改良も含む)の discrepancy bound を得たので紹介しようと思う.

津田塾大学整数論ワークショップ2020 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)