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津田塾大学整数論ワークショップ  2019

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講演概要

講演者五十音順・敬称略.講演概要の印刷用 pdf ファイルはこちらからどうぞ→

Q(√5) の円分的 Z2 -拡大の中間体の類数の計算について

青木 琢哉 (早稲田大学)

$p$ を素数,$n$ を正の整数とし,$h_{p,n}$ を有理数体 $\mathbb{Q}$ の円分的 $\mathbb{Z}_p$-拡大の $n$-th layer の類数とします.この時,全ての素数 $p$ と正の整数 $n$ に対して,$h_{p,n}=1$ は成り立つか,という Weber の類数問題があります.この Weber の類数問題は,$p=2$ の場合では小松氏,福田氏,J. C. Miller 氏などによって深く研究されています.

本講演では,Weber の類数問題における小松–福田両氏及び Miller 氏による先行結果を紹介し,Weber の類数問題の拡張として,$\mathbb{Q}(\sqrt{5})$ の円分的 $\mathbb{Z}_2$-拡大の中間体の類数を考え,先述の先行結果のアナロジーとして得られた結果について話をさせていただきます.

p = 2 におけるイデアル類群の岩澤理論

熱田 真大 (慶應義塾大学)

岩澤理論において素数 $p$ が $2$ の時は難しく,しばしば例外視されることが多い.例えば,イデアル類群の岩澤理論においても総実代数体上の岩澤主予想は $p=2$ の時のみ完全に証明されていない.本講演では $p=2$ に焦点を当てて,総実代数体上の岩澤主予想とその応用について話す.

Galois 表現に沿った類数の漸近的下界について

大下 達也 (慶應義塾大学)

$p$ を素数,$K$ を代数体とし,$T$ をある適当な条件を満たすような $K$ の絶対 Galois 群の有限次元 $p$ 進表現の格子とする.正の整数 $n$ に対して,$T/p^nT$ の固定化部分群で固定されるような $K$ の代数閉包の最大の部分体を $K_n$ と書く.

本講演では $T$ の Selmer 群を用いて,拡大塔 $\{ K_n \}_n$ に沿ったイデアル類群の $p$-Sylow 部分群の位数の漸近的下界を与える.これを応用することで,適当な条件を満たす $K$ 上定義されたアーベル多様体 $A$ が与えられたとき,Mordell–Weil群 $A(K)$ の情報を用いて,$A$ の $p$ 冪捻じれ点の座標を添加して得られる $K$ の拡大体の塔に沿った,類数の $p$ 冪部分の明示的な下界を与えることが出来る.

尚,本講演で紹介する結果は,$A$ が CM アーベル多様体である場合に関する Greenberg 氏と福田–小松–山形三氏による結果と,$A$ が楕円曲線である場合に関する西来路–山内両氏と平之内氏による結果の統一的な一般化と見做せる.

階数2のQ-仮想的 Drinfeld 加群のパラメータ付け

奥村 喜晶 (東京工業大学)

自身の Galois 共役と同種な $\overline{\mathbb{Q}}$ 上の楕円曲線は $\mathbb{Q}$-curve と呼ばれ,数論的に興味深い性質を数多く持つことが知られている.Elkies は,CMを持たない $\mathbb{Q}$-curve の同種類がモジュラー曲線 $X_0(N)$ のある商 $X_*(N)$ の $\mathbb{Q}$-有理点と (適当な意味で) 対応することを示した.

さて,代数体と関数体の間には様々な数論的類似性が知られており,この文脈で楕円曲線に対応するのが,Drinfeld 加群と呼ばれるある種の加群スキームである.本講演では,$\mathbb{Q}$-curve の関数体類似として $Q$-仮想的 Drinfeld 加群を導入し,階数2の場合に Elkies の結果の関数体版が成立することを紹介する.即ち,階数2かつCMを持たない $Q$-仮想的 Drinfeld 加群の同種類は Drinfeld モジュラー曲線の商の有理点から得られることを解説する.

Galois stable lattices in residually reducible Hida deformations

厳 冬 (大阪大学)

For a $p$-adic Galois representation $V$, the isomorphic classes of Galois stable lattices is not unique when the residual representation is reducible. Also, the number of the isomorphic classes of stable lattices is finite if $V$ is irreducible.

In this talk, I study the variation of the number of the isomorphic classes of stable lattices of ordinary modular Galois representations when the weight and the level vary in a Hida deformation by using Kubota–Leopoldt $p$-adic $L$-function. I also study the number of $\mathbb{I}$-free and non-free lattices in a Hida deformation.

種々の数に対する指数型不定方程式について

新庄 慶基 (大分大学)

指数型不定方程式 $a^x+b^y=c^z \; \cdots \,(*)$ の正の整数解 $x$,$y$,$z$ について,一般に解を決定することは困難であるが,ある条件の下で解を決定できる場合がある.特に,ピタゴラス数やフィボナッチ数などの特別な数に対する 指数型不定方程式について,様々な結果が知られている.

本講演では,いろいろな数に対する指数型不定方程式 $(*)$ の解に関する予想について考え,いくつかの条件の下でその予想が正しいことを示す.また,講演者の最近の研究結果も紹介する.

Bernoulli polynomials of negative order and Artin–Schreier extensions

平川 義之輔 (慶應義塾大学)

高階の Bernoulli 多項式は,古典的な Bernoulli 多項式のある種の多重化であり,例えば Barnes の多重ゼータ関数の特殊値と密接に関係することがよく知られている.また,階数が負の時には,Bell 数列と呼ばれる組み合わせ論的な整数列とも結び付く.一方,Bell 数列の法 $p$ 周期性が $p$ 元体の Artin–Schreier 拡大と何らかの関係があることは Touchard,Hall らの 1930 年代の研究で既に認識されていたが,Barsky–Benzaghou (2004) により発見された trace formula によりその体論的な解釈が確立された.今回は,trace formula に関するこれらの先行研究と講演者が得た一般化を紹介する.

保型形式の p 進族に附随する p 進三重積 L 関数

福永 健吾 (大阪大学)

Ming-Lun Hsieh は論文 “Hida families and p-adic triple product L-functions” (American Journal of Mathematics, to appear) の中で,primitive な Hida family の三つ組 $(F,G,H)$ に附随する三変数 $p$ 進三重積 $L$ 関数を構成した.

私は今回その結果を unbalanced な場合に限り拡張し,primitive な Hida family $F$ とより一般的な保型形式の $p$ 進族 $G$, $H$ に附随する三変数 $p$ 進三重積 $L$ 関数を構成した.$G$, $H$ の例として,Coleman family や CM family をとることができる.今回はその結果について話す.

Greenberg's generalized conjecture for p-rational imaginary quadratic fields

村上 和明 (慶應義塾女子高等学校)

奇素数 $p$ と虚二次体 $k$ に対して,$k$ の $p$-Hilbert 類体が $k$ の $\mathbb{Z}_p$-拡大体の部分体になるとき,$k$ を $p$-rational な虚二次体と呼ぶことにする.

本講演では,$p$-rational な虚二次体に対して,$p$ 上の素点の分解にある仮定したもとで 弱一般 Greenberg 予想が成立することを証明する.また,その結果から,これまで未解決であった $p=3$, $k=\mathbb{Q}(\sqrt{-971})$ で一般 Greenberg 予想が成立することが従う.

Julia 言語を用いた新しい数論パッケージ Nemo について

横山 俊一 (首都大学東京)

Nemo とは,ドイツ・カイザースラウテルン工科大学を中心として開発が進められている,数論パッケージの一つである.既存の数式処理システムとは異なり,動的かつ多重ディスパッチを許容する新しいプログラミング言語 Julia を採用しており,さらに Flint, Arb, Antic といった既存の高速ライブラリを最大限に活用する機構をもつ.そのため,従来の数式処理システムの実行性能を大幅に上回ることのできる実装がいくつか存在する.

本講演では Nemo ベンチマークの相手として Magma を用い,Magma を上回る(現時点で世界最速の)性能を発揮できる Nemo の実装例とその理由を実演を通して解説する.その上で,Magma を超えられない例もいくつか挙げ,Nemo の更なる高速化に向けての展望を(時間の許す限り)お話ししたい.

津田塾大学整数論ワークショップ2019 | 画像 津田塾大学 小平キャンパス本館 (ハーツホーンホール)